人間の感情は種々さまざまなので、記録するのも分析するのも困難です。ペット・セラピーの心理的効果についての出版物がほとんど見当たらないのも、そのことが原因だと思われます。
しかし、動物といっしょにいるときには、気分がやすまるとか、ストレスや欝状態や不安が軽減するといったことがおこります(Calvertの研究1989・Savishinskyの研究1992)。フランシス(1985)らは、老人ホームに小犬を週に1度連れて行き、それを8週間続けたところ、21人のお年寄の社会的、心理的な状態がよくなったと報告しました。動物は孤独感を癒すのに役立ちます。特に一人暮らしの老人の場合はなおのことです。
また、コルソンの研究では、社会的に孤立している人々が、ペットを飼うと自己評価が高くなり、他者とのコミュニケーションが円滑になることを明らかにしました。ペットを飼うことによって自立性が高まり、責任感も強くなるというのです。
ホスピスや緩和ケア病棟にいる患者たちにもペットは役にたつでしょう。というのは、そうした病棟では社会と隔絶されてしまったと感じている患者が多いからです。ところがペットに受け入れられているという充足感によって、スタッフや他の人との関係が円滑になるのです。
ペット・セラピーは、患者が今までとは異なった環境に適応し易くする効果もあるといえます。ペットとの関係を持つことによって、寂しさといった負の感情が癒され、より好ましい刺激のほうに心が向きます。老人ホームにペットを導入したロイは「環境からの刺激は、個々人の適応能力に良い影響を与える」と述べています。また長期療養をしている患者の疎外感を研究したブラウンは、健康上の問題とか、社会とのコンタクトをなくしているとか、病院に入院しているとかのことは、負の刺激として患者には捉えらえていると報告しています。こうしたマイナスの刺激にさらに加えられるのが、死という大きなストレスです。こうした中でペットとの交流はプラスの刺激として捉えられ、マイナスの刺激に対する緩衝剤として働くのです。
さらに、Calvertの調査(1989)は、動物との交流は寂しさを癒すことを明かにしました。動物に心を傾ければ動物もそれに応えてくれるし、さらに自分が動物にするのと同じように他の人にも心をかけてもらっていて、食事の世話もしてもらっているのだと自覚できるようになるということを明らかにしました。
ペット・セラピーは、患者と家族の両方に良い影響を及ぼすという報告もあります。
ウインクラーらは、ある施設に犬を導入した結果を報告していますが、入院中の半数以上の患者とほとんどすべてのスタッフから、その導入が歓迎されたと述べていますし、さらに、患者とスタッフとの関係までもが良好になったと報告しています(1989)。
コンパニオン・アニマルはスタッフの働く環境を良好にし、職場を楽しい雰囲気にします。それによってスタッフの消耗感が軽減されるのです。さらに抑圧感も軽くなって、楽しさをずっと増加させるという効果もあります。(Haggarの研究。1992)
ペット・セラピーのその後の研究では、ひきこもりがちになった患者が行動性を増すとか、気持ちが明るくなるとか、社会性が増すとかの利点があることを証明しました。その他、食事に意欲を見せるようになったという報告もあります。
ペット・セラピーを導入すると、向精神薬の投与がずっと減るという結果もでています。
こうした薬を使うホスピスや緩和ケア病棟では、この点に注目してよいでしょう。